バベルの塔

 覚めない夢から覚めてしまったような、意外にリアリストの自分に釈然としない呆然を覚えた。長くなり過ぎた髪を掻き揚げて、それでも項垂れてくる前髪、切り落としてしまおうか、それとも。夕暮れ前に起きて、北向きの窓からギリギリの角度で入り込んできた西日の、その燃えた赤が僕を照らすんだ、憂鬱なまでの今日と言う日がこれからも、ずっとずっと続きそう、だ。枕元に堆く積まれた雑誌や漫画や小説が、神様の怒りに触れて崩壊する頃、僕は解り合えない気持ちを誰かに伝える為の勉強をし始めるかな?そんな事、よく解らない、カッターナイフで削った2Bの鉛筆で、君への手紙を描いて、それから、その全てを粉々に破って捨てた。あの、今は亡き真っ赤な陽に照らされた僕の文字が、君に伝われば良いのに、伝わらない事が幸せだと言うこともある、と言うことを、実は僕が一番よく知っている。
 空っぽの冷えた食卓の上の、パスタストッカーに知識もなく挿されたカラーと白いバラ(と、あと名前を知らない紫の花)が、本来の色と形を忘れていく。蛍光灯の下で、白は白の意味を成さなくなる、悲しいとはきっとこういう情景なんだなと、僕は思った。バラの花びらが本当、虫の呼吸で剥がれてしまいそうだ、僕は生きていちゃいけないような気がした。粉々にした紙屑、もう捨ててしまっても良いのかな、いいんだろう?なぁ、僕よ。
 音のないテレビが報道している事が、全部嘘だとしても、僕が今一番大事なのは君の行方だけだから、惑わされずに生きていけるよ。もし、たとえば、もし…君の行方が嘘だとしたら、そうだなぁ、僕はあの夕陽に焼かれて、選ばれるんだろう。風が出て来たから窓を閉めるよ。もう眠くないんだ。