愛しそびれて

 やさしい人影、罪の跡、遥か久しい繋がれなかった言い訳たちが今ここで列を成す。ひかりで満たされた愛もない空白が正しい匂いを思い出してははっとする。分裂する身体が肋骨や蜥蜴や、臓器や道化師を五線譜の上に撒き散らしている、のを、僕は血に潤う唇を以て歌っている。かすれた、少し痛い声帯が何度も、歌った言葉は。
 美しいのは目隠しで泣く君の葉月の憂鬱さ。奪って奪われたいつでも0になる残像。おおおおお!大海嘯が失った記憶の渦にぶつかって散らばっていくよ!さっきまで腕に抱いていたお前とちぎれてしまったよ、紙一重で届かない。
 最期は笑いながら墜ちて行ければいい、と思う、のだけど。会いたいな、会えないくせに、僕は歌を口遊んで去るお前を呼んでしまう。馬鹿だなぁ、いつも愛しそびれて。