花魁

 気が狂いそうな桜の暴走、ロゼットのバラを待つ夕べ、眠りを忘れて生き延びるのを辞めるのも時間の問題。現を抜かせ!馬鹿者!重力すら耐えられない潮水の胸の谷間、欲情したって届かないじゃないか。何度だって東京湾へと続く道を裸足で駆けて、逃げた。夜の暴力、しづかな海の泥臭い匂いを春と名付けてあげたい。切腹や縊死の妄想に歯止めが利かず、どっかいってしまえる。(そんなの嘘だ。)

 アスファルトはいつだって足の裏に突き刺さって痛い居たいな、僕はその感覚を受け入れてほっとする。春の陰鬱な呼吸で梅も咲いたら、膨らんだ褥にはまた八月の亡霊が立っている、何も言わないで立っている。右手の傷は、じゃあ君に。左耳の聴覚は、来なかった昨日に。牡丹には玻璃と意図、GRETSCHには蔓と独楽、正しいと思しき答えで輪郭が出来ていく。僕は何億通りのやり方で世界の真ん中でただの音声になった愛を復元しようとしている。

 触れるくらい訳はないのに、それでも手を伸ばせないこの思いは何だろう。ぼんやりと朝、せめて君を飲み込みたい。磔刑台にはマグノリア、神の不在で舌打ちばかりの不眠症、ほつれたジーンズの裾、欠けた踵、脳髄と月とパンケーキ。