臓器移植

 偽物みたいな雲が浮かんでいる、市谷見附から東の空を臨む。外堀通り沿いのカフェで人物の往来に耐えながら、あたらしいひかりを探す僕の掌。薄笑いの西日に唆されて来る筈もない今日を繰り返す。
 こころはいつの間にか凝固してしまって刃物のように尖っていたよ。温くやわらかな僕の臓器は誰にも気付かれないまま小さく悲鳴をあげた。剥がれた爪も癒える日がいつかきっと来ると言うのなら、痛みも愛せと、そういう事か。
 せめて終わりの鐘の音の前に地平線を超えたかったな、鳴り響いて鳴り止んでさようならをも丁度良い。もう来ない明日の為に振り上げた拳には、鈍痛。