海洋学

 近付く寒波の跫音を聴きながら倒れた身体を冷やしていく。誰かの為の言葉をそっと呟いて、きらきらしている雨上がりをなぞる。削り過ぎた鉛筆はそれでも長くて辿り着くことない楽園への海図を描くには充分だった。
 青い海には届かない、伸べた手はやっぱり宙を掻く。僕を置いて出た旅の途中で潮間に砕けたあいつを許したい。論うようにソレを弄っている聖者の素振りの君がイタイんだよ。揺るぎない気持ちで弓を弾け、かなしみに突き刺さる八月色の矢は僕の懺悔を具現化していた。
 噛み付いた船の旗や地図はどろどろと溶けて形を失う、こころが踵を鳴らし体を離れ疾走していく。投げられた賽は眼を開いたまま黙ってばかりで先に進まず、次の世界に行けず仕舞のあいつのかけらは僕が鯨になって取り返すから。