妙見島行き深夜特急

 無性に悲しくなった夜は、あの日の海を思い出すようにしている。じゃぶじゃぶと潮水を掻く五本の指は江戸川に浮かぶ最後の島の油脂工場のにおいがした。空っぽの内臓を埋めるのはささやかに享受するディナー、忙しなく動く心臓と息の根を止めるのは麗しきスナイパー、きつくなった頭蓋骨を緩めるのはジャズベースとドライバー。手に入らないものは全部嫌いだと言っていた頃に手を伸ばすと、小さくなってしまった僕の背骨が疲弊していた。深夜特急に乗り込んだのに、手荷物ばかりが場所をとるのだ。もう捨ててしまおうかな、と反した手首には次の季節のような血管が青くにじんでいたよ。選べない答えを選ばないでいるから次の停車駅がまだこないような気がしている。必要のないものはたくさんあって、足取りを邪魔して踊れないのさ、君と。

「要るものは、じゃあ何だい?」

 天国へと昇れば君を護ることも出来やしないのだ、わかるかい、過剰な加護の元で今日も無性に悲しくなる。顔の中心辺りに眠る器官が海を湛えているが、これはただ灰が目に入っただけだ。少し、静かに。