この名を

 きれい、うつくしい、そんなものを信じていられない。裏切られない為の一つの方法、ずるいかい?「最初から信じないこと。」
 真昼間の蕩けそうな酸素の中で、たった一つの黒い夜を内包している。僕の内臓はきっと猜疑心と空想で真っ黒です。君へと続く被害妄想、君に見えない所でにやにやと哂っている。僕の本当の姿は分娩室で縊死する黒い化け物、猥笑する一つのIMMORAL.
 人波に揉まれ、打ち付けられ、それでも僕の身体はどこへ流れ着こうとする?着地点は宇宙?それとも社会の隙間からおっこちた暗い路地裏か?溺れそうだ、もうこの腕を掻くのは疲れたよ。波が憎いよ、凪が恋しい、誰か助けてと思う。僕は僕の中の夜が成長していくのが止められないのです。君を裏切る!僕の諸行と万象の夢が交差せずに終わる。僕は本当に何が正しいと、本当は何が正しいが食い違ってしまっているんだ。君の言う本当、君の言う本当、僕の夜はそれを疑う。僕が正しいと思い込む。
 波間から君が手を伸ばしている、それでも、僕は払い除けてしまいそう!恐れた間に君が見えなくなる。波間によぎり、すぐ消える。君が僕を、僕は君を裏切らないと言う保障は今どこにありましょう?磨耗していくこの骨が痛いと喚いても、君はもういないんです。同じ海の上で君と僕とは離れ離れだ。こんなにも近いのに、こんなにも途方ない。僕は君を信じていないんだ!信じていないんだ!信じていないんだ…君のその手を、信じたいんだ。

 鳥が行くよ!空を!あの空を行く!揉みくちゃの僕の眼にはみえるよ、君の眼にはちゃんと映っていますか?僕は君の匂いを嗅ぎ分けられるかな、このこころが泣いているよ。僕は君が恋しいんだ。
 もう一度呼んでくれ、正しく、この名前を。