no-where

 疲れた足に刺さっている思い出の棘を抜いて、滴りそうな血潮を受け入れる。温かな夕餉の待つ家路を急ぐお前のその影を飲み込んでしまったら僕は許されないんだろう。僕の心は向こう岸の夢よりもすぐそこにある他人の幸せを羨望してしまう。行く末が見え隠れしていて、曖昧で、確かめに行こうと僕が放してしまった扉の鍵穴は誰かの悪戯で塞がれてしまっていて、もう戻らないと決めた僕の帰路は絶たれて、彷徨うほかに居場所はないんだよ。
 笑うなよ、じゃあ君が、僕のために屋根を造ってくれるかい?温かな食事を分けてくれるんだろうか、君のその一匙の妄言で、僕の心を掬い取る事は、許されるのだろうか、僕にはわからない、のは、僕は今そのことを思っている暇がないからだ。