梨に唇

 唇に溢れた梨の果は砂を噛むような痛さで逃避行、雨の中伝った視線がこんなにも意味のないものだとは露知れず、結局のところ太陽に生かされていた。苦い空気が好いなら、そうしろ。この部屋は少しの宇宙を孕んで、もうすぐ何も失くなるのだから。
 一途に好いた方の負けさ。汚されちまった身体が交われど、あまりにも遠い。一時の慕情に拐かされて騙されても恨めない。褥の上に弾けるのは点ばかりで愛し続けても線になれない。一本の地平線の上で、輪郭のない二つで一つの生命が揺らぐ。乱れろ、お前のがそう望んだくせに、理性がいつまで残っている?錯乱した言い訳ばかり、にしては洒落臭い、その唇を縫い付けてやりたい。