行く影の

 丁度南中した半月を左手でくすねて、淡い淡い白い光に脅かされた中指の先に、絶えた生物たちの空っぽな黒目を感じる。数億の視線が求める期待をはぐらかして生きる僕の不眠症は、很しくて摂理に悖る。僕は明日も夜に飲まれない月の孕子でありたい。膿んだ爪先を引き摺って歩けなくなるのは多分もうすぐ、射ゆ獣の心を悼む、夜が完全にこの世から消え去るには時間がかからない、高鳴る鼓動が僕をまた滅ぼそうとしている。月に蟹、夜明けに明星、この世は夢やら幻やらで成り立つ不安定な纐纈だね。
 あの月は満ち肥ゆるか、それとも欠き消えるか、僕に耳打ちでそっと教えて慾しい。朝焼けに雲の稜線を染めるあの世とこの世の真ん中で、病めるように苦笑いしながら次の季節を待っている。僕の襞を気配が撫ぜれば、世界で一番美しい三十一文字を口走って、寒々とした真昼を僕の中で殺して、交喙を土に埋めて追悼してしまったんだ。朽ちたい。