鈍ましいほど平坦な霧が晴れない。痛ましいほどの安寧が空を飲む。僕の頬が微かに震えたら世界は一つの決断と、六十と六億の犠牲を払う。知らず知らずのうちに蜩すら死んで、何を描いていたんだとか、誰を愛していたんだとか、よくわからなくなって、曖昧な短調でリフレインを口走る。裏切り、この恋は届く前に、この声は果てる前に、僕が裏切った。脳の中で起こる不名誉な革命とか、明日の朝ごはんとか、二年後の約束とか、大切なものまでどうでもよくなって、呼吸を忘れてしまったら、僕は勝利。未来永劫、こころは誰かに託してしまえずに、自分の決定と、自分の概念で構築されていく。世界は丸いだの、四角いだの、鮮やかだの、味気ないだの、僕は与えられ、その中から選んでいく。心臓の底の方かな、それとも心の中心か、そこから沸き立ち発生したものは一体なんだと説明すれば良いだろう。逃した!今紡ぎたかったイメージは、どこへ消えていくのだろう。僕の身体の中で爆発しそうな感情が、何を以て収縮と冷却を交互に繰り返すんだろう。放たれた、放物線を描いた、五体満足な人間の身体を持った僕は両の腕、両の脚、一つの胴体と性器と、頭部を一つに繋いで得た輪郭の、たかだか70kgほどの物質のどこに途方ない闇があるんだろう。僕は病気なんだろうか?言葉は便利だ、名前は一つの道標だ、僕を病気だと誰かが言えば何人かは信じてしまうだろう。世界はまるで一辺を失った三角形のようだよ!点の集約、線の集約、面の集約、ああ、こんなに怖い気持ちは初めてだ。夜が明けるのを待っている。月は今どこにいる?光合成すら甘んじて、僕の呼吸に棘が刺さる、太陽もそろそろ不必要か、反語ばかりの宇宙、齟齬ばかりの東京で、掻き鳴らせなかったエレクトロニック・ベース、妄想、眠れない。橋を越えられない、罪も拭えない、誰かも愛せない、誰かがわからない、不安であるのか、そうでないのか、明日の光が、今どこへと向かっているのか、そんな事全てどうでも良いのに。僕の毒は、何色ですか、結局、君は僕のことなどどうでもいいんだ。悪い事じゃない、むしろ、それは正解なんだと思う。瞼の裏に、君に似た影を見る。それが君なのか、それとも死神なのか、よくわからないんだ。

 引力に導かれて、
 眠りを繰り返すその度に、
 僕は恍惚の笑みで
 命日に近付く。