次は無い等、解っている。しかし

 どうせまた爪先に金木犀を枯らす雨が降る。呼吸の度に脣の淵が冷える。巨きな河を越えるとそこは東京であった。ガラス戸を開け放って十月を迎え入れると、僕は夏掛けの薄さにはっとする。灰色の雲が流れているのか留まっているのかすら判別できないくらい平ら。天井に淀んでいた澱がゆっくりと垂れ籠めて僕の横隔膜を痺れさせる。いっそここで呼吸を諦めたら、なんて、下らない問答の最中でも僕の肺には酸素と二酸化炭素が出入りを繰り返していた。ちゃんと生きている喜びと生かされている快楽と、あと何を味わってしまおうか。湿った風が、本当に寒いと、思い尽した脳の中で、今一本の絡まった糸が解けて、そしてまた、絡まる。血が点々と星座を編んだら、耄碌としたジレンマに番いの蝶が留まる。会いたいと思ってしまう、恋をしたまま凍りつく、もうすぐ冬が来る。結局性干渉がしたいんであるなら、それしかしないのと、僕が不能になるの、どちらが永遠の愛と言えよう?
 次の正解に思いを馳せる。次はないのに。