毒の海、夜

 生き延びてもいいですか?容易い海に戻るようにそっと掻き消えたい。ああ、ああ、白くなった口笛に何れは冬を呼ぶ雨すら許せそうで、磔になった君のやわらかなケロイドが綺麗さ、二人、愛と呼んだ嘘の呼吸を合わせている。
 求めすぎた罰が遠い星を隔て、猛毒の海を渡る檻褸の舟は波すら立てずに、次の突風を待っている。君の薄い皮膚に掛かる透明な蜘蛛の糸がこの歌を暗示していて、らら、らら、集う海流に乗れず仕舞いの僕を只管に笑うみたいだ。
 だらだら無意味で在り続けたレトリック、大丈夫、君の憂う逖い影もこの手に欲しい。尽きていく身体を無理矢理醒まして、届かない、理解っている、それでもいいから、いいから。この海に沈めば早く楽になるけど、もうすぐ星たちが泣いて夜の帳を引き裂くから、その時は不埒な生命線を累ねて世界の最涯てで君と生き延びたい。