バターナイフ

 黙りこくったまま下らない悲愴感に打ち拉がれている。網膜から脳まで走る視神経の途中、光のスピードで消失する映像でありたい、絶え間なきお前のレンズに透過され続けていたい。ただそれだけを望む薄汚れた毛布に包まって柔らかくなった僕の没落する孤高をゆっくり抉っていくバターナイフ。光と風船の曼陀羅の中で音楽が鳴り止んだら、言い疲れたグッドバイをちゃんと許したい。
 東京は今日も凍てついて、膜の張った会話が殖えていて、妙に快晴の青空がいつもより迅い等高線を循らしているのも見抜けずに、そこに在る確証は影だけが任っていた!泣いているのだか笑っているのだか判らない少女等、超えられずに掠めていく一線を抱える少年等、僕は群衆の真意を知っていた。さよならだらけで悲しいな、傷つかず傷つけない方法は最終的に意味を成さずに、単位を失せた塊に紛れて、あと三百と五十日以上はある月日を笑っている。