月と溺死

 影をそっと掠め盗って二十三時の花園通りでした約束、老いた兵器と十の爪で綻びかけた間違い探しの世を暴く。無感覚に震える指が擦った燐寸で焦げる葉の匂いに巻かれ、薄荷の苦みを頬張っては平らげる。このまま走れば間に合うだろうか、点滅する光はやがて赤くなって、両足を彩るあなたの行き先を綴りながら、それでも往け、と、僕に言うのだ。
 卵黄や南瓜に良く似た今宵の月。満ちる度に欠けてしまうから、本当のことはいつだって影の中に潜んで、ゆっくり剥いだ外套の内部で縻爛が嗤う。絶対などと言う君の眼は悲しい温度だ、突き放しも引き寄せもしないこの距離を保ったまま僕は往くよ、追い付かないなどは百も承知、愚かしい程率直な感覚は恋に等しい。