旅人算

 真っ昼間に月浮かぶ初秋の影は肌寒く、それにしても太陽はいつもいつも残酷で、致命傷を抉るような旅に出たのはいつだったっけな。爪弾いた弦と世界の終わりは等しく震えて音を奏でた。さよならの凶器、露呈した骨、朝の光度と街の匂い、そのすべてを許して、振り払って歩けばきっとどこかで終わりは待っているはず、だったのにな。
 帰れなくなったのは僕のせいなのに、まだ切符を捨てられずにいます。磨り減った背骨はようやく正しい形に癒えたのに、君宛ての手紙はポケットの中で角度をなくしています。行き交う人混みに僕はもうすぐ蕩けそうで、河を超えるために飛び出した魚は呼吸をする術をしらない。まだ青さの残る木々は次の季節に怯えずに立っていた、僕は、その摂理を模倣しようと手を伸ばしてはみたけれど、触れたら壊れてしまいそうなものばかりで躊躇い傷をまた増やす。
 インクの滲んだ文字のコントラストがただただ不義である自らの影によく似ていた。未来が徐々に速度をあげ、こんな愚かしい切先を鋭利にしていくのだとしたら、君に追い付くための具体的な数値も明日には不確かに見えるよ。誰かに寄り添うたびに裸足で触れる細かな破片がひりひりして少し悲しい。君の向かう先がどこであろうと僕の骨は揺るがないのだから、為にならない数式や愛憎の論文を書き殴った手紙を今すぐに破いて、棄てて、追おう、君の轍を。