利口な獣とラグランジュの解

 「此の世など焼け野原のやうだ。」と言った君なんかのために世界は終わらない。乗り過ごして何となく途方に暮れている人混みの中で僕は幾度となく現れた夢の惨殺死体に揺らいでいた。空腹を満たすために動物を屠ってきたのなら、空白を満たすために人を殺すなんて容易なことだろう?一思いにやってしまえよ!でも、と言い掛けてやめた次の台詞はきっと自らを傷つけるから、噛み締めた君の唇を称賛したい。雨雲の影に怯えた小鳥はこころの底に拡がる鬱蒼とした森の中で死んでしまった、腐っていく閉じた羽を食らい尽くす獣になりたい。獰猛、且つ利口な獣に。
 闇を抱えた覚えはない、そんな夜には三日月がよく似合ったから。君がいて、世界がある関係にたくさんの解答を求めすぎた、僕は右手の指の数を数えながら掻き乱れた君を見破った。蝋が燃える時のような美しい色達を模したマントを羽織り、瓦斯式の洋燈を携え、焼け野原を往く旅人の真似事をして笑った、「桜は、まだかいねぇ。」君は見ていた?この僕の燃えるような不様な四肢を、蕩けた砂糖菓子の重さの笑みを。