赤犬

 噛み砕いた爪を惜しむような痛み、ちりちり、そんな小火がお前をちょっと阻んでいる。背中、は、少し汗ばんでいて、到来する夏が取り憑いていた。僕の指先は在りもしない鍵盤をなぞって違和感だけを食べ尽くしてしまった。夜は芳醇、ほら、名前がない僕らは浅い泥濘に溺れる。べとつく風、ぬるついて、ばちばちと蚊が死ぬ音がする。
 赤犬があげた狼煙、破壊は一瞬で何かを奪ってはしまうけれど、お前の心臓が安寧を手に入れられるなら、闇雲に手を振り払ってはいけないような気がする。赤と橙と黄色と白と、それから夜よりも暗い黒い煙!それで輝くお前の瞳に、ひかりは美しい。
 緊張と安堵がループするひび割れた日々がこわいか?大丈夫、僕はお前の遺伝子すら孕んでもいい覚悟だ。滾れよ、漲れよ、愛されんや、お前。