ナイトパレード

 真夜中ってだけでも戸惑うのに、ひとつも星が無いのは怖いな。星明かりも絶えたのに、この手の生命線が見えるのは不思議だ。眠らない街が眠りに就く時、人類は正しい姿で残っているだろうか。新しい進化が次の戦いを僕らは笑って夜に踊っているけれど、本当は悲しみを紛らわしたいだけなんだよ。不確かにも組んだ指で贖う罪、頬張るべきベラドンナの果実、マーチング・ステップ、革命前夜。
 トルコ石の美しい色彩で着飾って、楽隊は往く、フラッグは舞う、僕はその列の一部になる。肉眼では認識できない天王星に向かって小さな合図を送ろう、カテゴライズなんてみんなみんな捨て去ってしまおう。多くを語る必要はないんだ、沈黙を愛せ、僕らは最初からクローゼットの中になどいないのだから。だらだらと吐き続けた言い訳は誰の腹癒せ?君が戦わなければならないのは君の所為ではないか?爆音に暴かれた自らの心の中をもう一度、見ろ!星を纏う者の懐に抱かれ、失われそうな単位を思い出してよ。

レムニスケートの煙

 一瞬は粉々に砕けて永遠になった。僕ははっと息を飲み、しばらく黙っていると一月の寒さがこころの歪んだ部分を抉り取って、うろんな客はいつの間にか帰るべき場所もないのにどこかへ行ってしまった。予言者の思い描いた最後の風景は本当に全部が絶望に包まれていたのか、僕は確かめる術を知らずに歩きだした、忘れたばかりのやり方を思い出してもいいのだろうか。君に会えなくなってから何度目の冬?温めてくれなくてもいい、謝りたい言葉があるんだ。それなら僕の胸を切り裂いて掴み取って走って逃げろ、河を超えたらさようならなんだな、悲しくなどないのだ、だから、真摯な眼で僕を見ないで。
 一と八の頭上に存在する筈もない神様が与え給うた永遠の証が君の思い出とやらにちらついている、遠くの街の雪の気配、間違いでない嘘、真実が企んだ不正、葬り去るべき討論は僕の血中で燻りを見せ、まるで手の内で光って消える薄荷煙草のようです。

さよなら

 あの日の冗談と同じような顔で笑ってよ、そんな言葉も聴かず君は灰になった!残酷、でも甘い月、豊饒の地図と涙で描かれた河。ただ安らかにと組み合わせた手と手は外殻だけを残し、すっかり全部溶けてしまったようだ。煙草の燃える音に気付かされ僕は眼を醒まし、今産み出せる全てをここに立てておかなくてはな。例え明日が来なくてもアリバイ工作は万端、君の思想よりかは単純で僕のメビウスよりかは複雑な生活、僕の血肉骨、ビル、君の亡骸にも存在した重力。僕は君の遺したレコードをかけてぽつねんと泣いた、涙が枯れたら跳べ、跳べ、飛来したUFOより遥か高く。そこから見える次の点で回る世界は尊ぶべき音楽を乗せて、ぐるぐる回った!

利口な獣とラグランジュの解

 「此の世など焼け野原のやうだ。」と言った君なんかのために世界は終わらない。乗り過ごして何となく途方に暮れている人混みの中で僕は幾度となく現れた夢の惨殺死体に揺らいでいた。空腹を満たすために動物を屠ってきたのなら、空白を満たすために人を殺すなんて容易なことだろう?一思いにやってしまえよ!でも、と言い掛けてやめた次の台詞はきっと自らを傷つけるから、噛み締めた君の唇を称賛したい。雨雲の影に怯えた小鳥はこころの底に拡がる鬱蒼とした森の中で死んでしまった、腐っていく閉じた羽を食らい尽くす獣になりたい。獰猛、且つ利口な獣に。
 闇を抱えた覚えはない、そんな夜には三日月がよく似合ったから。君がいて、世界がある関係にたくさんの解答を求めすぎた、僕は右手の指の数を数えながら掻き乱れた君を見破った。蝋が燃える時のような美しい色達を模したマントを羽織り、瓦斯式の洋燈を携え、焼け野原を往く旅人の真似事をして笑った、「桜は、まだかいねぇ。」君は見ていた?この僕の燃えるような不様な四肢を、蕩けた砂糖菓子の重さの笑みを。

OVERDOSED LOVE

 衒うべき奇は君のために大切にしまっておいたから、僕の湾曲した月状骨を削って薬を拵えよう、世界の終わりのような朝が来たときは何錠でも差し上げよう。要らなくなった鋏、砕け損なった鏡、君の手には何が残って、僕の呼吸は何を失った?それは互いに判っていたのに、沈黙が豊かな夜を連れてきてしまうから道を間違えてしまうんだ。
 飲み干した末路、愛という不埒な化学物質、寄り添いたいと思った君は通信が途切れ、最後の最後ではぐらかされた答え。明日の約束が喩え嘘でも、僕はそれに溺れる準備をしていた。していた、していた。

可惜夜

 没落した眼窩に夢の跡、泣き濡れて目醒めた二十五時、身の丈に合わぬチェロを持ち出して僕は虎狩りを弾いた、夜がしんしんと深くなる深くなる。天王星がやけに輝く冬の淋しさを糧に発電所を作ろう、次の駅に誰も待っていなくとも僕は駆け抜けることを知らない。白くなって沈む月、待たずとも来る黎明、位置に惑って棄て去る荷、山脈の向こうから呼んだ雨。誤飲したままの緑青と斜めの光とを鉢合わせた球体を潰した重圧の数を僕は五線譜の上で数えていた。振り向かれないなら僕は茨の影になろう、どうしたって君に成り得ないなら僕は僕を全うしよう、演ずるなど容易い・スイッチは壊れていない、君がくれた慈悲も目も眩むような未来も狂ってしまわないように、尖った神経の針と痩せた毛細血管の糸で夜明けの方角を縫いあわせたいんだ。
 僕は鳴らしていた鈍重な楽器を放り投げ、冷えた褥の型にはまる。眠らせて、くれないか!