虹の絵画

発語するには名残惜しい言葉がここにはあった。夏は始まったばかりだというのに、もう次の季節の予感に苛まれる。句読点が多いのは誰かに悟られてはならないと無意識に打つ杭で、戸惑うままでは帰れやしないんだぜ。駈けてゆけ!駈けてゆけ!その辻を曲がれ…

ワンダー・ワーカー

僕らは26通りの選択肢の中で感ずる北極星を夜になるまで待った、無影灯の下で認知する・なんだ巨きな潮流の中にいたようだ。 必然と偶然が互いに身を寄せ合い起こすそれを奇跡と名付けるならどんなに馨しき事なのであろう。新しい世界を生きる者、果てなき天…

ΠΛΑΝΗΤΕΣ

旅を終えて老いた眼の虹彩がひとつの答えを物語るなら、その全てを僕が迷わず纏めて綴ろう。夏の馨、蝶の影、眩む路面と驟く雲、また来る雨の気配に僕は帽子を目深に被り直して、噛み潰したのは咄嗟に出てしまった悪態。手探りで捜し当てた君の目隠し・グッ…

感染

次の夏の予定を認めてほしい。揺るがないで立ち尽くすのは終わりの気配に怯えているから、硝子越しで見ていたのは野原が焼けていく風景。繋いでって伸べた線が有り余る乞い、生き易い方法と摩り替えた惑星間の問い、まだ来ない筈の未来に期待は野暮だろう?…

手と時、体と眼

手 知らない手 知らない手が触れる 知らない手が私に触れる 知らない手が私の前髪に触れる 知らない手の温度が私の前髪に触れる 知らない振りの手の温度が私の前髪に触れる 知らない振りの凍えた手の温度が私の前髪に触れる 知らない振りを続けていた凍えた…

パラレル

どこに焦点をあわせればいい、客観視する映像に目を凝らせば僕と言う虚飾を剥がすことに必死になるだけで、よくない。ひたすらに合図を待っていたら、そのことに必死になりすぎて合図を見逃してしまいやしないか。泣いていないでなんて何で言うの?愚か者、…

ファイティング・イズ・ノット・ブラインド

夜が深くなるたびに世界は羽音を立てて高く飛ぶ、僕は罪の深さだけ深く眠ろう。進むべき道は君の篝火でいつだって照らしていてよ、暴風雨に倒れそうになっても強く焼きつくその光を忘れないから。涙も掻き消すほどの叫びで雲を破るなどは叶わなくとも、呼び…

ラ・カムパネッラ

覚束ない指で朝を手繰り寄せ、次を待つ眼に燐寸の灯。べたつく海風がおうおうと泣いて、こころはいつだって掻き乱される。徒波、揺らいだ。羽田から見た東京湾はコンクリートに沿う青さと寂寞の念。尤もらしい言葉で僕をなじるな、やるせない胸の内で落ちる…

!!!

冷凍庫の中で凍り付いたまま夏を乞うた感嘆符、まほろばに惑い見誤らないように伸ばした手は僕が取るから。天国には君を脅かす雨も風もないのなら、今守るために振りかざした拳はどこへいくの?今生きる惑星のうえで来てしまう朝に向けて踊ろう、君の拙いス…

メルトダウン

(不埒な。)君の短い言葉が妙に胸に刺さる日は地面の下に潜って、多機能化した物体を不能にしたい。こんな重い荷ならどこかに捨ててしまえばいいのに、僕にとっては大切な思い出とやらがつまっていた。何のために神様がいるのか順を追って説明してほしい、進…

コールドスリープ

つばめ低く飛んだ午後は何も持たずにやがて来る世界を待ち侘びて、宇宙の隅で眠らせてほしいよ。青い獣達の予言に震え、正しく思うばかりの感傷が胸を引っ掻く。思い出に僕らは気が触れた、要らない空気に笑うのも飽きた。ただ湯気がそう土になって、ここは…

シンキング・アバウト

逃げて逃げて逃げまくって全部置いていくつもりだったのになにしているんだろう。振り切れないなら助走などいらない。二月はやはり心に悪いが、三月を羨むのはもうやめた。鳴って欲しくない携帯が震えるたびに壊したそれと、欲情するたびに汚した手。誰にも…

ぽつねん主義

期待はするな、小さな火傷が少し痛いな。会えないような気がしているのは何となくわかっていたのに、古びた喫茶店で呷る珈琲。シロップを探す僕は句読点で三分割、今日のような晴天が長く続かないように祈っている。止まない往来を責めることはしたくなかっ…

銀河鉄道の夜

心臓には柘榴石みたいな炎が灯り、徐らこの身を焦がしてもいいんだよ。正に終いえたその時に君が笑ってくれればそれでいい。古びた寓話の最後には僕の灰で君の名を刻め、真昼間の月の色をした爪を汚す僕の不義を最期に許してくれないか。 待ち続けた手紙はこ…

おかえりなさい

君のために振るった剣で壊れた世界を何個数える?流す血の数を数えて新しい真理に近付く。一瞬の追憶に拐かされ薄ら笑うお前は誰だ?夕暮れの毒に崩壊する三半規管、コンクリートの上に寝そべってやけに広い空を泳ぐ金魚は冬眠状態。背骨の曲線によく似たあ…

睡眠薬と覚醒剤

ゆっくりと飽和する裸眼の水晶体が永らえた藍に濡れたら今日は最後の道を往く。ほらもう眠りから醒めろ、悲しいかな、僕らにはいつだって現実が待っている。秋分点超えてそれでも鳴るオレンジの、さよならのひかりは見えていますか?空白の九日間の上で僕ら…

真昼の手

錆びた銅に燻るお前の顔をいつまでも愛していられるとは限らない、いつか来るさよならのために今日のお前を慈しむのはどこか物悲しい。飲み干した珈琲の苦さ、頬に添うシベリアの風、凍り付いた都市の真ん中で幾千回目の真昼を恐る。尊い眼で睨んだ運命線は…

朝と轢死

飛び込んでいいかい?圧死する涙目の中で汚れない月を羨む。待ち焦がれるのには飽きたのだ、もう惑う時間すら残されていないなら高く飛ぶ方法を考えろ。砕けた硝子の消えてしまいそうな傷跡が残り続けて少し痛い。夜が明けたら次の空のことを考える、舟を漕…

生命のフレグランス

生きるために生まれてきた。大丈夫、こんな途方もない悲しみの昼が終わる、僕らはさよならとは言わない。こころの中にはあたらしい夢、正しい月夜、誰かのためにあげた産声の中で手をとり輪になって、踊ろう。何億年前もの星の光が迷わず僕の目に飛び込む!…

臓器移植

偽物みたいな雲が浮かんでいる、市谷見附から東の空を臨む。外堀通り沿いのカフェで人物の往来に耐えながら、あたらしいひかりを探す僕の掌。薄笑いの西日に唆されて来る筈もない今日を繰り返す。 こころはいつの間にか凝固してしまって刃物のように尖ってい…

海洋学

近付く寒波の跫音を聴きながら倒れた身体を冷やしていく。誰かの為の言葉をそっと呟いて、きらきらしている雨上がりをなぞる。削り過ぎた鉛筆はそれでも長くて辿り着くことない楽園への海図を描くには充分だった。 青い海には届かない、伸べた手はやっぱり宙…

妙見島行き深夜特急

無性に悲しくなった夜は、あの日の海を思い出すようにしている。じゃぶじゃぶと潮水を掻く五本の指は江戸川に浮かぶ最後の島の油脂工場のにおいがした。空っぽの内臓を埋めるのはささやかに享受するディナー、忙しなく動く心臓と息の根を止めるのは麗しきス…

十一月のシトラス

迎えたくない明日を拒む方法を知る由もなく、抗うように眠らない日々を愛することなど出来んのだ。昂ぶり尖った神経が針みたいになったら、悴んだ掌の毛細血管を紡いで瞼を縫い付ける。冬はいつだって僕を責めるのに必死、薄々感付いている身体を弔う花なん…

気象庁

気象庁ならこの気持ちをなんと命名するだろう。痛みを畏れたまま新緑色のマントを翻した。誰も手に負えない後悔など知らないだろう、頬の傷を隠さないでいたら僕らはあたらしい曇天の下でアラウンド・ザ・ワールドを踊る。君に伝うものなど何もない、君の頬…

2008

半分になって、そこには空白。思いあぐねた呼吸器に棘が生える、ほら、存在していてはいけない生命体が今目の前の鏡の中でさかさまになってないているよ。僕は2008年をこの先もずっと憎んで生きていくんだ。こんな無様な愛におぼれ、それでも私の上に立つ腐…

ひとみごくう

ひりひりと痛い肺の奥深くで寂寞の風が鳴り止まない。頓服薬を常用、地質学者の果てない夢。掌は熱を帯びていました、氷を溶かして上昇する喫水線を呼び止められずに。そのまま青く爆ぜた胸から曝けた肋骨を尖らせる。不透明な窓から覗くのは誰だ、そこにい…

月と溺死

影をそっと掠め盗って二十三時の花園通りでした約束、老いた兵器と十の爪で綻びかけた間違い探しの世を暴く。無感覚に震える指が擦った燐寸で焦げる葉の匂いに巻かれ、薄荷の苦みを頬張っては平らげる。このまま走れば間に合うだろうか、点滅する光はやがて…

方向性

僕の心に正しい方向を探してはならない、なぜなら一度囚われたならば逃げてはいけないと言われたからです。歯の足りない歯車は社会の中では回れない、仕合わせな環境を探したいのに無駄な火の粉を飛ばして削られながらこれからずっと生きていなくては。これ…

エチュード

長い戦いが今終わる!とうとうと雨を呼ばない、僕は雨乞い師になる夢を見た。繰り返す!日常に疲弊する精神が眠れない日々を続かせる。急かせ、もう一度だけ言うぞ、愛しているんだ、こんな愛無き世界に、僕はひとつにはなれない、二つに離れない。曖昧な正…

千代田区ストレンジャー

夜、とりわけ深夜のこの街を歩き回るのが好きだ。大通りを避け、薄曇りの細切れになった空をぼんやり見ては、ガス切れ間近の100円ライターと二、三度格闘してふらふらと歩き出す。「そういえば千代田区は路上喫煙禁止だったな。」へっと背徳を含んだ口角を引…