2007-01-01から1年間の記事一覧

海と殺人

二十九日の月の入りは針より細い影を爆ぜ、じっとりと赤く、まるでひとつの粘膜のように侘んでいた。地球照が薄仄かに冷めていく、そのひとつに漸く君を識る。僕らは随分と愚かな傷を舐めあっていたようだね。いとも簡単に美しく見えてしまった鏡のような水…

嘔吐に花束

淫雑の復讐、眠らない街ももうすぐ転寝をするんだろう。痣が冷える、星を攫っても物足りないなら、じゃあ次は何を御所望で?風が幾分か八月の亡霊を見失い始めたら濁って、恥じらって、触れないで。誰かが僕らの空白を笑おうと、それでもまだ何かを捨てたい…

行く影の

丁度南中した半月を左手でくすねて、淡い淡い白い光に脅かされた中指の先に、絶えた生物たちの空っぽな黒目を感じる。数億の視線が求める期待をはぐらかして生きる僕の不眠症は、很しくて摂理に悖る。僕は明日も夜に飲まれない月の孕子でありたい。膿んだ爪…

誰だろう、光を消したのは、蔓冷えの初秋に君を知ったかぶりして。触れたいのは疾しいかな、少しでも温度をくれたら認知できるのに。黙っていた、僕の眼は星を失ったんだ、ちゃんと涙は流れている?僕には見えないんだよ。危うい緯糸を解いてしまわぬように…

演技をしている

虹は結局粒子だから、許されない歓びを吸って繋ぎ留めて。でもね、存在ばかりの君を僕は想うことしか出来ずに、あの線を超えるのを諦めて。誰かの無事を祈れば誰かが死ぬ、その理を君と僕に当てはめたりして、君を祈れば、僕は。 名前の場所を教えてくれよ。…

Naberius!

その砂地に烏の足跡、望んで陥った風景、飲み干した波濤に今少し血が交じる。褥は歪んで、正しい眠りを得られない僕は神経衰弱。浅い眠りの沼地はやけに冷たく僕の足を掴んでいた。真ん中で浸る思い出、曼陀羅に過る想いで、枯れた身体に付いた足跡を爪弾い…

五時半のストール

お前を信じる。伸ばしても届かず、融けてしまったこの腕にはひ弱な橈骨が存在していた。失うことに不安を抱いては、真直ぐ歩くなんてなんだったか忘れそうだ。でもね、明日はお前無しでもちゃんと巡ってくるから、存在など大した話ではないんだな。僕はおる…

変態

経路はもう僕を拒んでいるんじゃないか、と思う空の下、感情論で押し切った結論にもう綻びが見える。君の何を奪えよう?金色の東雲に、君の瞼が光っている!死にそうだ、僕の頬がどんどん冷えていく、僕の炎は、世界の溜息に吹き消されそうなんだ。美しいま…

梨に唇

唇に溢れた梨の果は砂を噛むような痛さで逃避行、雨の中伝った視線がこんなにも意味のないものだとは露知れず、結局のところ太陽に生かされていた。苦い空気が好いなら、そうしろ。この部屋は少しの宇宙を孕んで、もうすぐ何も失くなるのだから。 一途に好い…

暴走のワルツ

漕ぎ出でて死ぬ夢の海原に僕たちが殺し尽くした蟲の尖った六角錐の脚が絡み付いて、おんぼろの舟は容易く沈む。揺れる月が指差した未来はまだ雨雲の下で、うそつきだった、明日世界が崩壊するとしたら、誰もそれを止めるなど考えなかったから。妄言主義か享…

十中八九

窒息しそうな空気、得られないものばかり。重なり合ったまま絶えていく、鉄塔は亡霊の遺伝子。切ない気分が尽きないのは誰かのせいにしてばかりだから。世界は扉を探している、向こうに何があるか知らないけれどそれはそれでいいんだ、人間の致死率を考えて…

愛しそびれて

やさしい人影、罪の跡、遥か久しい繋がれなかった言い訳たちが今ここで列を成す。ひかりで満たされた愛もない空白が正しい匂いを思い出してははっとする。分裂する身体が肋骨や蜥蜴や、臓器や道化師を五線譜の上に撒き散らしている、のを、僕は血に潤う唇を…

テトラヒドロカンナビノール

君を殺る準備は済んでいる。もう全て掌握している気分。泥沼の昨日から解脱、神の草を齧れば世界は酩酊。脳内でおびただしい物質が溢れている、全て、流れ出していく。 本当は全部知っている、あの子の自殺の理由とか、僕が東京に憧れるのか、とか。そろそろ…

停電願望

真夏日、咽喉が枯れ果ててしまったらもうお前に届かなくなるんだな。探し疲れて諦めた最後の一個を引き摺って、さよならならちゃんと言わないと、終わりばかり望んでいる十一月がまた今年も来てしまいそうで、何とはなしに過ごしてしまう夏を笑っている。 鏡…

厳冬の夏

歓びの底に淀んだ悲しみがないと不安だ。僕は薄い氷膜の上を行進する兵隊です。無表情で知らない振りをする道化のようなものさ。夏なのに冷たい光が射している、小さな期待は燃えてしまったかもしれないけれど、いいよ。君が指を差した方向へ行こう。君の恣…

グッドバイ

内臓が冷えていく、凍えた心臓が循らせる血管が青白い血漿を葉月の速度で噴出している。積み上げた本やレコードの影が誰かの横顔に似ている。酒精中毒で白くはだけた行き場のない獣達が果てしなく濡れている、山が鳴いている、嘘を容易く許せよ! 妄言が止ま…

死に愛

僕は死ぬ度に眠り、甦る度に目覚めて生活を繰り返す。毎夜毎夜死んでいる。だから僕は夜が好きなんだ。句読点の多い僕の言葉がいつまでも果たされない遺書のように真っ白い画面の中で横たわっている。 僕はそれを愛と呼んでいる、愛の反対の言葉は無関心なの…

月に夢路

溶けそうなぬるま湯の毒素の夜、流れ雲が上空の突風を具体的に示している。望から朔へ移ろう途中の月がはっきりと、歪んだ薬指から撥ねた髪の影までを地面に写し取り、僕がそこに存在する事を定義する。太陽の目の届かない影に夥しい死がある!今は夜、死の…

手と手と

崩れた呼吸が八月の亡霊を呼び寄せている。知らない誰かの声を聞き、はっとする。 消息不明でいたさっきまでの僕は孤独なシーツの上で死んでいて、なんて、悪い嘘で。次の秒針を待ち続けるその間の世界は三回、手と手を取って踊れ。 笑ったままの禁忌症、足…

呪い

日差しを憂いて雨乞いする無様な私はスネアドラムをひたすら叩く。雨の歌、雨の歌、ヘッドフォンの中で探して、卑屈に笑う私には時間がないんです。蕩けそうなバター、雲よ早く。今日が過ぎれば、明日が死ぬ、そんな妄想、下らないビジョン、愛している者す…

救われないと思った。どうしても痛い傷ばかりが化膿する。そうだな、与えられたならどこへ行こう?あの日の雨に僕を変えるいくつかの化学物質が混ざっていたとしたら!朽ちそうな面影は夕立の果てに消え去った。全部満ちて、それから、全部引いていく潮が、…

ずるい

僕は君に認知されたくて詩を紡ぐのだけれども、君とは不特定多数過ぎて結局何一つ伝わることはなかった。だってそうだろう?僕には十の指しか持ち合わせていないのだから。 君は思っている、僕があまりにも狡いと。

うつけ

群れを成す雨雲が高気圧に引き摺られてどこかへ流されていく午后、僕が窓を開け放ってジェッソを乾かして、オレンジ色の作業着に白が滲んでいくのを見ていた。かなしいことは病気だと言う人がいる、ことを悲しんでいる僕を病気だと言ってくれますか?意味の…

処刑

多過ぎた星を数え切れず、僕の眼は二つだよ。待っていた朝は僕の一瞬の転寝のうちに過ぎ去って、次の好機を望んでいる。夕暮れのギロチンが真実に揺らめく夜を準う、太陽は今日も処刑され、刎ねた首が西の地平線の遥か彼方に転がっていく。愛と喩えたまやか…

数学者

いつしか僕は悲しくて、書き殴った分解された数を掻き集めている。ひどく塩辛いこの涙と海の関連性を数式で表してくれ。インクが滲んで、僕の脳細胞が無駄にならないうちに。 僕は丁度円周率と同じくらいの言葉で正確に曖昧さを君に論述したいのさ。全てが数…

怪光線

抱えた膝!期待など疾うに捨て去っていたんだ、雲間の世界なんてそんなもんさ。漏れるステレオ、君のジオラマ、西の空から俯瞰で見下ろす神様の怪光線、にやり。科学の跫音があの光の波動を一つ残らず計算し尽くしたら、僕らは勝者?それとも。 聞こえるかい…

からだ

生き延びろ、その旅にいつも裏切りが見え隠れ。歌え、夜を迎えるためのタチアオイやノウゼンカズラの管楽器。冷凍保存していた僕の尊厳死は春になって溶けだして、今はもう腐って骨を露呈している。 酷い愛にはもう慣れた。それ以上など。 許したい、許され…

赤犬

噛み砕いた爪を惜しむような痛み、ちりちり、そんな小火がお前をちょっと阻んでいる。背中、は、少し汗ばんでいて、到来する夏が取り憑いていた。僕の指先は在りもしない鍵盤をなぞって違和感だけを食べ尽くしてしまった。夜は芳醇、ほら、名前がない僕らは…

手紙を

八月の亡霊が繕う晴天に程近い青いクロッキー帳に書きしたためた路線図、君への手紙と僕の遺書と。伝わるなら僕は何だって君に話そう!そんな些細なことを悔いるような内容で、僕はそれを燃やすための燕のマッチをいつでもポケットに忍ばせている。 薄い毒を…

ウィルス・イムヌ

僕らは破滅しそうさ、いや、僕らは平気だね、苦しんで死ぬのはきっと僕らの子供たちだ。数mmの誤差で急所を掠めて降ってくる飛礫の雨は、躍起になって翔ばしたロケットの破片かな? みんなの両手は昨日の失敗と明日の重圧で溢れ返っていて、例えば明日自分が…